恋の始まりは偽装結婚
第一章

困った状況

 ラスベガス、八月。

 私は容赦なく照りつける太陽も気にならないほど、片手にスマホを握りしめたまま茫然自失状態で、チャペルの外にあるベンチに座っていた。

 私の座るベンチの後ろ七メートルほどのところに、可愛いチャペルがある。

 木材で建てられたとても小さなチャペルで、入口の上には細長い三つの窓があり、ステンドグラスがはめられている。

 チャペルを背景にしているのに、私が今着ている純白のシンプルなウエディングドレス姿が滑稽に思える。

 私の傍らには、新郎が着るタキシードが入っている白い箱があった。

 その箱に視線を落としては、重いため息が私の口から漏れる。

 ほんの数分前に送られてきた彼からのメール。

 スマホの画面を何度読んでも、内容は変わらない。


『急遽帰国することになった。悪いけど手伝えない。ごめん』


 それを送ってきたのは、日本の大手旅行会社に勤め、半年前にここラスベガスで駐在員として働いていた二十七歳の笠原慎二(カサハラ シンジ)さん。

 私、瀬戸結愛(セト ユア)と同い年。

 様々なホテルが建ち並ぶ超大型リゾート施設のある街から、車で二十分ほど走ると、国道沿いにこのチャペルはある。

 国道は巨大なトラックや自家用車が頻繁に走り、乾ききった砂漠の砂でほこりが立つ。


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