ここで息をする
Scene2 煌めく水飛沫






水泳を始めたのは4歳のとき。

スイミングスクールの体験入学コースで出会ったのが、航平くんと沙夜ちゃんだった。

その日体験入学をした人の中で歳が近かったのがこの二人で、2歳年上の二人とは一緒に泳いでいる間にすぐに仲良くなれた。初めて水泳を経験する時間を共有するうちに、自然と距離は縮まったから。


通っている幼稚園や保育園は違ったけれど、練習がある日はいつも一緒に過ごす友達になった。小学生や中学生になる頃には休日に三人で出掛けたりもした。

全員、専攻していたのは自由形。水の世界に居ても居なくても友達で、水の世界ではよきライバルな仲間。

時には競い合いながら上達していく時間は楽しかった。居心地がよかった。

あの水の世界を好きになったのは、二人の存在もあったからだと思う。

それぐらい大切な二人。

でも私は水泳とともに、好きな世界で繋がった関係まで手放してしまった。避けて、出来るだけ関わらないことを選んだ。

水泳をやめると決めた私を最後まで引き止めてくれた二人は、今もなおあの場所で私を待ってくれている。さっさと逃げた私のことなんて放っておけばいいのに、友達だからそうはいかないらしい。


私がいくら遠ざけても気にかけてくれるのは嬉しかった。でも……そう思うのと同じくらいつらいと感じてしまう。

だっていくら気遣ってくれても私は二人の望みは叶えられないし、その気持ちなんて二人には分からない。いつかを期待して待たれても、それはただの枷となるだけ。

どんな息苦しさを感じながら泳いで、最終的に好きだったあの場所から去ったのかなんて……。

誰にも分からない。分からなくてもいい。

泳ぐ楽しさも、自由になれる居場所も、すんなりと呼吸が出来る時間も……息苦しくてつらかった現実も。

全部、あの水の世界に置いてきた。


もう、私には関係ないことなんだ。



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