腹黒エリートが甘くてズルいんです
酒井君にとっては、昔の友達と再会して、手を引っ張って道を歩こうが、肩に触れようが、なんて事のない仕草。


片やあたしは、そんなことの一つ一つに今更ドギマギするっていう恋愛能力の乏しいオンナ。
経験値がもう、天と地の差なわけですよ。


バカみたい。
本当に、酒井君さえいいのなら、色々教えてもらって、あたしもちゃんと結婚がしたい。


「じゃ、近々飲みながら作戦会議立てようぜ! 俺が仲田を35歳までに幸せにしてやる! んじゃ、またなー!!」


駅に着くと、それぞれの目指す方向が違った為、酒井君は元気に手を振り、あっという間に人混みに消えてしまった。

既婚者だから当たり前なんだけど、例えばあたしと一夜を共にするような分かりやすいお誘いも無ければ、アピールも一切無い。
勿論そんなことをすれば幻滅して、今後一切連絡なんて取らなくなるけれど。


清々しいほどに、あたし達は『偶然再会した中学の頃の友達』であって、それ以上でも以下でもない、という当たり前の事実が何故か少し寂しいような気がした。


自分の目指すホームに行きかけて、ふと振り返ってみたけれど、そこには酒井君がいるはずもなく、急ぎ足のうつむきがちな人達が行き交うだけだった。
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