腹黒エリートが甘くてズルいんです
複雑な思いで見つめ続けた背中が、ついに見えなくなる。


あたしは、ただ幸せになりたいだけなんだ。


季節が巡り、3月になればあたしは35歳になる。
だからどうだという訳ではないけれど、それまでに幸せになりたいと目標を掲げることは、悪くないと思う。


でも、そのアドバイスを偶然再会した昔の友人に求めるのは間違っていたのかもしれない。

実際、参考になるようなこと、何一つ教えてくれなかったし。


不倫なんて勿論嫌だし、このままもう二度と会わずに終わってしまう方がいいのかもしれない。


傷は浅い方が、という言葉が浮かんで慌てて首を振る。
傷なんてついてない。

あんなキス、なんでもない。

あたしに何も影響しない。


きっともう酒井君に会うことはないな、と諦めにも安堵にも似た気持ちで小さくため息をつく。
楽しかったし、時間の無駄だなんて思わないけど、これも人生経験なのだと思った。

再会した旧友が結婚している。それはごく当たり前のことであって、その事実を飲み込むための経験だったと思おう。

早く切り替えて前を向こう。あたしは絶対に幸せになるんだから。
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