腹黒エリートが甘くてズルいんです
今、向かって行ったそっちの方向に家があるかどうかも知らない。
これから、行きつけのバーに行くのかもしれないし。

もしかしたら、外でお酒を飲む度に優しい奥さんがかわいい趣味の車でお迎えに来るのかもしれない。


本当は誰とでもキス……いや、それ以上のことを全然平気でしちゃう倫理観の人なのかもしれない。


本当は、めちゃくちゃ子沢山で今からお土産のたい焼きを20個くらい買って帰るのかもしれない。


もしくは、もう高校生の子供とかがいるのかもしれない。


全然、知らない。


それなのに、中学生の頃好きだったというだけで、あたしは何で信頼しきっていたんだろう。


酒井君の表情や話し方の中に、好きだった頃の面影を見つけては軽くときめいていたんだろう。

そして、何より一番がっかりなのは、あたし自身に対して。


……ほんの、少し。
『あ、キスしてる』って気づいてから動かなかった自分がいて。
ほんの少し、だけど。……単純に嬉しいと思っているあたしが、確かにいた。
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