ノラネコだって、夢くらいみる

花火

「どうしたら……いいって…」

 ウソでしょ。いちるが私を好き?

 放心状態の私を、いちるが、ぎゅっと抱きしめる。

「近づいちゃだめ?鈴に」

 これ以上どう近づくっていうのよ……

 いちるの体温が伝わってくる。胸の鼓動も。

 ……そっか。ドキドキしてるの、私だけじゃないんだ。

「いちる、聞いてないの?」

「なにを?」

「私、逢阪に、恋愛禁止って言われてる」

「……初耳」

「それで私、その条件をのんだの。だから、いちるとは恋愛できない」

「……」

 やぶったらあの鬼に、何されるか……。それこそ、『もうお前の面倒は、みねぇ』なんて言われかねない。

 まだ始めたばかりなのに、そんな結果になったら、おじいちゃんとおばあちゃんに顔向けできない。

「わかったなら、離して」

 いちるが私からそっと離れる。改めて、いちるのことを見る。……このイケメンが、私を好き?本当に?

「ってか、小学生かと思ったとか、酷くない?」

「遠目だったからね。……鈴は、お仕事続けたいんだもんね」

「やるって言ったからには、続ける」

「わかった。じゃあ、鈴には何も求めない」

「そうしてもらえると助かる」

「でも、僕が勝手に好きでいるのは、いいでしょ?」

 ………!

「好きだよ、鈴」

 ………!!

「何もしないから。せめて側にいさせてね」

 いちるは、わかっていない。

 こんな風にまっすぐに気持ちを伝えられて、私の心が、どれだけ揺れてしまうかということを。
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