小さな恋、集めました 【学園編・1ページの短編集】
クラブの後輩・淳と昼休み、教室
「せ~んぱいっ、青のボールペン貸して~」
 すぐ右側の廊下の窓から、テニス部の後輩・淳が顔を覗かせた。窓枠に両腕をかけ、柔らかな前髪の間から、丸っこい目をキラキラさせてあたしを見る。こうやって毎回ワンコみたいに無邪気な笑顔でねだってくるのだ。
「先輩ってば~」
 あたしはこの笑顔に弱い。弱いんだけど……。
「ダーメ!」
 今日はキッパリ断った。とたんに淳の顔が不満そうになる。
「なんで」
「だって、淳は借りパク常習犯だもん」
「え~」
「昨日貸した本も、一昨日貸したマーカーも、先週貸したDVDも、まだ返してもらってないよっ」
 淳はしばらく唇を尖らせて考えていたが、急にパァッと顔を輝かせた。そうしてあたしを手招きする。
「なに?」
 あたしは立ち上がって窓に近づいた。
「じゃ、先輩を借りパクしていい?」
「は?」
 びっくりして窓から離れようとしたら、淳が伸ばした手に制服の手首をギュッと掴まれた。大きな手に握られたところが、熱を帯びていく。
 淳が身を乗り出して、あたしの耳元に唇を寄せた。
「先輩の物より先輩自身がいい。ね、俺がずっと借りパクしていい?」
「ど、どういう意味!?」
「ほかの男には渡さないってこと」
 いたすらっぽく笑った淳の顔が、急に大人びて見えた。

【了】
< 5 / 6 >

この作品をシェア

pagetop