雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
桜川那子は江坂悠李に僅かな望みをかけると決めた
 シンと静まり返った保健室では、そんな校内の喧騒が遠く聞こえていた。
 
 室内の片隅に設置されている一組の机と椅子。その主である桜川那子(さくらがわなこ)は、金色に染まった髪を指先でクルクルといじりながら、見るからにやる気のない態度で座っていた。
 
 机の上に置かれた数学のプリントは、名前を書いただけで一問も解いていない。
 
 この春三年に進級した那子が保健室登校になったのは、二年生の二学期からだ。それまではなんとかクラスで授業を受けていたのだが、なかなか馴染めず、そのうち出席日数も危うくなり、最終的に取られた手段がこれだった。のだが……。

 学年も変わり、担任も変わり、更には校長まで変わった事で、那子の保健室登校も、このゴールデンウィークまでとなってしまった。これで出席日数が足りなくなれば、留年するか退学するかの二択しか道はない。そうなれば、快適な瞳子(とうこ)との生活も、手放さなければいけなくなる。それだけはどうしても避けたい那子だった。
< 17 / 370 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop