雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
今宮萌果の前で八尾匡は本気を出した
 五月第二週の金曜日。一年生の歩行遠足当日の朝。

 ジャージにリュック姿の生徒達がグラウンドに集合していた。九時の出発を前に、各クラス委員が班毎に分かれて並ぶよう指示を出す。


「二時間だよ、二時間! ひたすら歩かされるなんて拷問だよね」


「うん……確かに」


 伊万里(いまり)に愚痴りながら、萌果(もか)はずっと髪型を気にしていた。柔らかそうなセミロングを前髪だけ編み込みにして、それがいつもより萌果をやや幼く見せていた。


「しかもお昼ご飯、自分達でカレー作るなんてさぁ。歩き疲れて無理なんだけど!」


「うん」


 まだ歩き始めてもないよ? と思いながら、伊万里は頷く。学校指定のジャージの袖を少し折り曲げて、それを何度もやり直す萌果に少々呆れていた。これも萌果の口癖『女子力アップ』の一環なのだろう。
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