雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
「ね? 那子って呼んでもいい? アタシも夏成実でもかなみんでも、好きに呼んでくれていいから」


「えー。どうしよっかなー」


「冗談も言うんだね?」


「言うよ。さっきからアタシを何だと思ってんの?」


「こっわーいヤンキーだと思ってた」


 そんな冗談を言い合いながら、那子と夏成実は階段を下りて行き――。

 もう誰もいないと思われた踊り場を更に半階上ったところから、ひょっこりと顔を出したのは……功。

 男子バスケ部の助っ人を頼まれている功は、練習に出る様煩く言われ、ここに逃げ隠れていたのだが、三年女子の思わぬ喧嘩に出くわし、その一部始終をこっそり覗き見ていたのだ。


「あの痴漢女も、いいとこあんじゃん」


 夏成実の勇姿を思い出し、そんな独り言を呟いて口端をあげる。そして制服のズボンについた埃をやる気なく払うと、功もその場を後にした。
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