狼上司の不条理な求愛 -Get addicted to my love-
1 プロローグ
「赤野……さん?」
「ふ、ふぁははいっ!」
 
耳元に囁く澄んだ深い声色に
私はビクンと身を震わせた。
 
「俺がさ~あ…
あれだけ言った筈だよな?間違いが5ヵ所あるってよぉ」

段々と下がる声のトーンに、ゾクリと背筋が凍りつく。

くっくっく…

声の主は、含み笑いで私の恐怖をさらに煽った。


「なのにさ。
ど~うしてそれがそのまま、先方にファックスされちゃったのかなぁ?」

「そ、それがその。
修正前のが机の上に残っておりまして…」

「ほう……」

震える肩に大きな掌がストンと置かれ、2回ほどモミモミされた。

「リ、リーダー。これってセクハラ……」

「何⁉」

その言葉を放った途端、ふっと背後から人の気配が消え、重石が取れたように私の肩が軽くなった。

ホッと胸を撫で下ろした、その直後。

「“セクハラ” だぁぁ?」

私ごと事務椅子が90度回転したかと思うと、激しい怒声が響き渡った。
< 1 / 269 >

この作品をシェア

pagetop