もう一度君に会えたなら
もう一度君に会えたなら
 わたしと川本さんは電車を降りると、息を吐いた。

「十年ぶりだね」

 お互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
 わたしと川本さんが、この懐かしい場所にきて、十年。わたしと彼はそれなりに年を取った。
 そして、お互いや、周囲の人がおかれた環境が大きく変わった。

 もう二人で旅行をしても、両親はわたしたちを咎めたりはしない。
 だが、この場所にはお互い、足を踏み入れようとはしなかった。
 お互いに軽々しく訪れるべきではないと、暗黙の了解として捕とらえていたのだろう。

 川本さんは大学卒業後、法科大学院に進学した。そして、無事にスムーズに試験に受かり、弁護士になった。わたしは大学、大学院と問題なく進学できたものの、試験に一度落ちた。二度目の挑戦で合格できた。

 だから、今は二人とも同じ仕事をしている。といっても働いている事務所も経験も違うけれど。
 川本さんはお母さんの働いている事務所に就職していた。

 わたしはもともとその事務所で働いていた人が新しく立ち上げた事務所で働いている。
 関係のない事務所でとも思ったが、あれ以降もコンスタントに仕事をこなすお母さんのことを知っている人も少なくない。

 
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