よいムードのまま夜を迎えた私たちだったが、台本に目を通したところで互いに黙り込んでしまった。
 というのも、スペシャルドラマの台本は物語としては感動的なのだが、役の上で恋愛関係になる優輝と私の間柄が最後の最後で兄妹と判明するのだ。
 風呂から上がると、優輝の話し声が聞こえてきた。電話中らしい。
「確かに衝撃のラストですが、その設定は視聴者を裏切ることになりませんか?」
 台本への不満をぶつけるとすれば、相手は西永さんか。
「安易? 僕はそう思いませんが」
 優輝は苛立ちを隠さず、ぶっきらぼうに言った。ドキドキしながら耳をそばだてていると、急に「ああ」と納得したような声が聞こえてくる。
「えげつないですね」
 ——ん? なんだ、なんだ?
 台本に対してえげつないという言葉は似つかわしくないと思うのだけど。
 身支度を急ぎ、リビングルームへ向かうと、優輝は台本を読んでいた。
「あの、どこかに電話していましたか?」
 立ち入った質問だろうか、と口にしてから思う。
 台本から目を上げた優輝は苦笑いを浮かべた。珍しい表情なので思わず見入ってしまう。
「西永さんに訊いた。結末がどうしてこうなったのか、を」
「何か理由が?」
「姫野明日香の事務所がプレッシャーかけてきたそうな」
「……え?」
 驚いた。スペシャルドラマには関係ないはずの姫野明日香が、まさか台本に絡んでくるとは誰も考えまい。
「こっちをハッピーエンドで終わらせると、あのオーディションの意味がなくなると大層ご立腹らしい」
「それは完全に言いがかりでしょ?」
「西永さんは自らの不注意で姫野明日香の顔に泥を塗った格好だから、多少なりとも譲歩せざるをえない。でも彼は『単なるハッピーエンドにはない、深い余韻が残るドラマになるはずだ』と自信満々に主張している」
 西永さんの自信に満ちた顔を思い浮かべながら、大人の世界は複雑だと実感する。
 しかし完全なる言いがかりであろうと、それを逆手にとってやろうという逞しさは見習うべきかもしれない。
 突然、優輝がニヤッと笑う。
「そういえば未莉は俺の従妹だったよな?」
「は? なんの話……あーーー!」
 いきなり何を言いだすかと思えば、お見舞いに行ったときの従妹設定を蒸し返してきたのだ。その場面が脳内によみがえり、恥ずかしさで顔が熱くなる。