どうしてほしいの、この僕に
「うちの社長は見事に騙されていたし、あんな感じでいけば?」
「そ、そうですね」
 ——いやいやいや、あんな感じって簡単に言わないでよ。
 でも少しだけ気が楽になった。表情の乏しい私が役作りをするのはたぶん普通の人より難しいのだ。
 今をときめく守岡優輝さまからヒントをいただけるなんてありがたい、と思ったら……。
「ま、今回は役作りの必要はなさそうだけどな」
 台本に目を戻した優輝がすました顔で言った。
 ——なによ、ただの嫌味?
 心の中では盛大に毒づいているくせに、なぜか今、ものすごく優輝に抱きつきたい気分になっていて、そんな自分に私は激しい戸惑いを覚えていた。

「いやーよかった、よかった! 恋も仕事も順調で」
 台本の読み合わせが終わった後、私は柚鈴とふたりでカラオケ店へ来ていた。
 柚鈴は案内された個室に入るなりマイクを持ち、部屋中に響き渡る大音量でそう言ったのだ。約束のようにマイクがキーンと鳴り、私は思わず耳をふさぐ。
「順調……なのかな?」
「そりゃそうよ。あんないい男を独り占めしている上、彼のおかげで仕事もゲット! しかもいきなり主役のヒロインで女優デビューだよ? これを順調と言わずしてなんと言う」
 ——確かにそう。そうなんだけど、さ。
 私は背もたれに寄りかかり、小さくため息をついた。
 柚鈴が私の顔を覗き込む。
「あれ、守岡くんとうまくいってないの?」
「うーん、別にケンカしているとかじゃないんだけど」
「じゃあ何よ?」
「……避けられているのかな」
「え? どういうこと?」
 それが私にもよくわからないから困っているのだ。
 しかし内容が内容なので、いくら親友の柚鈴であっても説明しにくい。
「いや、ほら、今はけがをしているから仕方ないといえば仕方ないんだけど」
「仕方ないって、もしかして……エッチしていないとかそういうヤツ?」
「そ、そういうヤツ……です」
 うつむいて目をぎゅっと瞑る。恥ずかしいことこの上ない。
 でも経験の浅い私の手には負えない悩みであるのも事実だ。
 タイミングよく店員がドリンクを運んできたので、柚鈴が愛想よく応対する。
 防音仕様の分厚いドアが閉まると、彼女はニヤッと笑った。
「それって未莉はしたいのに、守岡くんが手を出してこない感じ?」
 ——わ、私は、したいのか!? そ、そうなのか!?
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