どうしてほしいの、この僕に
 あからさまな指摘に私は「いや、あっと、んー」と言葉にならない何かを発しながら、認めるべきか、否定すべきかで迷う。
「手を出してこない……というわけでもないんだけど」
「え? でもエッチしていないというお悩みでしたよね?」
「えっと、そう……なんですよね」
 むしろ何もされていないほうが、いっそすがすがしい。彼は私に興味がないのだと割り切れるから。
 ——中途半端がいけないのだ、中途半端が!
 しかしそれを本人に直接抗議することができないから困る。
「つまり、ちょっかいは出すくせに最後までなさらない、ということ?」
「そ、そう……かな」
「へぇ、変な人」
 ——ちょ、ちょっと! 変な人で片付けないで。
 私が求めているのは感想じゃなくて、どうすればいいかというアドバイスなのだ。
 しかし相談内容が恥ずかしすぎて頬だけでなく全身が熱い。とりあえず注文したジンジャーエールを飲んでのどを潤す。
「で、未莉はどうしたいの?」
 柚鈴はいきなり核心に切り込んできた。
「どうって、それはまぁ……避けられているなら、これ以上はどうしようもないと思う」
「雑誌のインタビューであんなに大胆に告白しておきながら、未莉を避ける理由がわからないけど」
「そんなの、私だってわからないよ」
 半ばやけになって答えると、柚鈴がプッとふき出した。
「未莉のことだから、自分から誘うような高等テクニックは無理だろうしなぁ」
「誘う!?」
「そうそう。さっさと押し倒しちゃいなよ」
「え、無理」
 そんなことできるわけない。
 即答する私の向かい側で親友は腹を抱えて笑う。
「いやー、守岡くんは超ドMだね」
「なんで?」
「だってそれが本当の話だったら、彼はずーっと我慢しているわけでしょ。とんでもない自制心だよ。そのシチュエーションでそんなことありえない」
「いや、だから、私は避けられているのか、と」
「でも何もしないわけじゃないんでしょ? その気はあるんだよ。ということは初心な未莉のために、懸命に自制しているんじゃない?」
「どうしてそんなこと……」
 言いかけてハッとした。柚鈴が真面目な表情になったのだ。
「未莉を大切に想っているからじゃない?」
 私は瞬きを忘れて柚鈴の顔を穴が開くほど見つめた。
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