どうしてほしいの、この僕に
 途端に、頭に血がのぼる。誰のせいでこうなったと思っているんだ!
「洗っておくわ。未莉の貴重な財産だから」
 くぅ。悔しいけど、言い返す前に課長の声が聞こえてきたので、フンと優輝に背を向けた。
 課長に昨晩の火事について説明すると、驚いて絶句した後、恐縮してしまうほどのいたわりの言葉をかけてくれた。
『それで今はどこに身を寄せているんだい?』
「あ……姉のマンションです」
 少し焦ったけど、決して嘘はついていない。ただ、そこに住んでいる人がなぜか守岡優輝だった、というだけで。
 課長との電話を終えると、私は脱力してソファに身体を預けた。
 問題は友広くんだ。きっと彼には優輝の声が聞こえている。明日出社したら何を言われるかわからない。どうしよう。
「何か悩みごと?」
「あのね、私が電話中とわかっていて、どうして声をかけるわけ? 課長には姉のマンションにいると説明したのに、最初に電話を取った人に優輝の声を聞かれてしまいましたけど!」
 勢いよく責めたててみたけど、優輝は涼しい顔のまま私の隣に腰をおろした。
「ふーん。それが何か?」
「困ります。明日出社したら絶対面倒なことになるんで」
「俺の声、聞かれたくなかったんだ? 電話の相手、男だろ」
 そう言いながら、優輝が私のほうへ顔を寄せてくる。私は思わず身を引いた。
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