どうしてほしいの、この僕に
 余計なことは言わないで。ますます眠れなくなりそう。本当に私、眠れないときは徹底的に眠れないのだから。
 放っておいてほしいのに、優輝は私の両肩に手を置き、顔を覗き込んでくる。急接近されたせいで、心臓がドキンと跳ねた。彼の腕に抱きしめられた感覚が、勝手に呼び起こされたのだ。
 しかし肩をぽんと突き放すようにして優輝の手が離れた。まさに肩透かしを食らった私は目を瞬かせる。
「早くふとんに入れ。風邪ひくぞ」
「うん」
 そう。早く寝ましょうと言ったのは、この私。
 ふわふわの羽毛ふとんとシーツの間に身体を滑り込ませ、ぎゅっと目を閉じる。それから私は小刻みに頭を横にふった。
 違う。絶対に違う。何かの間違いだ。
 一瞬でも、抱きしめてもらえるんじゃないか、と期待してしまったなんて。
 一瞬でも、抱きしめてほしい、と思ってしまったなんて。
 リモコンで電灯が消され、優輝が隣に入ってくる。見なくても彼がこちらに背を向けているのがわかって、少しだけ胸が痛んだ。おかしい。ホッとしなければいけないところなのに、どうして——?
 ふとんが私と優輝のぬくもりで温まった頃、まるで時を刻むように規則正しい彼の寝息が聞こえてくる。ひとりぼっちではないのに不安ばかり募る不可解な心を抱きしめて、睡魔がやってくるその瞬間を私はひたすら待ち続けることにした。
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