どうしてほしいの、この僕に
 柚鈴の声が震えたから、私も顔を上げずにはいられなかった。そんなことはない、と言おうとしたけど、何かが胸につっかえて言葉が出てこない。
 急に湿っぽい空気になったのがいたたまれなくて、無意識に向かいの席を見る。
「へぇ。見てみたかったな。……未莉の笑った顔」
 なぜか優輝は少し寂しそうに笑って、どこか遠くへ視線を放ったまま、決して私を見ようとはしなかった。
< 53 / 232 >

この作品をシェア

pagetop