どうしてほしいの、この僕に
 我ながらなんともまぬけな声が出た。でも仕方ない。話が飛躍しすぎだし、それは初耳だった。
「人生について悩んでいたときに、たまたま紗莉さんと知り合った。はじめて会ったその日に紗莉さんから俳優をやってみないか、と誘われた。他にこれといってしたいこともなかったから、とりあえずOKしたんだ」
「へぇ」
「紗莉さんは当初俺をグリーンティで育てるつもりでいたらしい。だけどそれはちょうどグリーンティが資金繰りで苦戦している時期で、苦肉の策で彼女は俺を成田プロに売ったんだ」
「ええー!?」
「誤解するな。別に恨んでいるわけじゃないから。前にも言っただろう、紗莉さんは俺の恩人だ、と」
「それは覚えているけど」
 でもやっぱり人間を売るとか買うとか、実際あってはならないことだ。それが自分の姉のしたことだと思うと、なんだか胸がむかむかしてくる。
 優輝はお茶をひと口飲んで、話を続けた。
「そこでたまたま事情を知った高木さんが俺のマネージャーを買って出た。高木さんはおそらく以前から紗莉さんに好意を抱いていたんだろうな。でも紗莉さんは年上の女性で、ましてや一族の人間の愛人だ。迂闊に手を出すわけにもいかない。俺の存在は高木さんにとって渡りに船だったわけだ」
「なるほど」
「結局、紗莉さんと高木さんがいたから、俺の今がある」
「は、はぁ……」
 言葉が見つからない私は、ただ感心したように相槌を打った。
 最後はものすごく強引なまとめだったけど、あっという間に3人の関係を理解できてしまったから、優輝の説明は簡潔で的確だったと言えるのかもしれない。
 だけどなぜ唐突にそんな話をするのだろう。
「あの、どうして急に姉の話をする気になったの?」
「物事には順序があるだろ?」
「それはそうだけど……」
「ついでに、これだけは未莉に知っていてほしい」
 何を?
 眉根をぎゅっと寄せて優輝を見る。
「俺への脅迫は、そのターゲットが俺自身なのか、それとも紗莉さんか高木さんなのかわからない、ということ。今は静かだけど、この先も脅迫が絶対にないとは言い切れない状況で、もしかすると未莉を何らかの形で巻き込んでしまうかもしれない」
「そんなの、気にしません」
 条件反射的に即答した自分に、私自身が驚いた。考える前にそんなこと言っちゃって大丈夫なの、私!?
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