空を祈る紙ヒコーキ
たしかな違和感

「……そうなんだ」

 空が紙ヒコーキに書いた願い事について話している時、私はそんな生返事しかできなかった。

 願い事が叶ってすごい。普通はそうやって感動してみせたりするんだろうけど、そう感じられないくらいの違和感が胸を圧迫する。

 こうやって空と初対面の時の話になるとどうしても意識してしまう。私達の間では初対面の時の記憶に差があるってことを。

 ネットカフェで悪口を書いていた私に空が軽蔑の眼差しを向けた。それがまぎれもなく私達の初対面。普段はあまり考えないようにしているけど、そのことはこうしてふとした時に思い出させられ私の気持ちに無視できない引っかかりを残している。

 最初こそ「覚えててもらわない方が都合がいい」と思ったけど今は違う。

 空が私との〝本当の〟初対面を思い出したらどうなるんだろう……。今築いている家族としての関係にヒビが入ってしまうんじゃないだろうか。そんな風に考えてしまう。

 あるいは、記憶がないなんて嘘で本当は私との初対面を正しく覚えているのかもしれない。家族としてうまくやっていくために忘れたフリをしてくれているのかもしれない。

 だとしたらやっぱり私もそのことにはこだわらないで普通にしているべき。その方が波風は立たない。分かっていても気持ちは穏やかじゃなかった。

「返してよー!」

 幼い子供の泣き叫ぶ声で思考が止まった。私達の間にあった空気は変わる。

 幼い男の子が三人、高台に走ってきた。幼稚園に入る前くらいの年齢だと思う。見るからに二人で一人をいじめている、そんな様子だ。自分より気の強そうな子供二人に自分のおもちゃを取り上げられ泣いている一人の男の子。

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