空を祈る紙ヒコーキ

 あんな小さい子供の間にもああいうことがあるんだなと憂鬱な気分になった。でも助けようだなんて考えは出てこなかった。そんな場面を見かけたからって助けなきゃならない決まりはない。

 面倒なことは見て見ぬフリをする。それが賢い生き方だ。下手に首を突っ込んだら自分にも災いが降りかかる可能性がある。私がいじめられていたって助けようと考える奇特な同級生は一人もいなかった。小学生の時、私はそう学んだ。馬鹿は損をするって。

 空は立ち上がり、その子達の方に行った。

「そういうことはやめな」

 いじめっ子の手からおもちゃを取り上げ、空は元の持ち主にそれを返した。泣いていた子供は嬉しそうに笑った。

「自分も同じことされたら嫌だろ?」

 いじめっ子達にも平等に優しく接する空を見て、そういえばこの人は馬鹿だったと思い出した。ネットカフェで私を見た時もそうだった。後先考えず自分の感情だけで動く。空はそういうヤツだ。

「ごめんなさい」

 いじめっ子の二人は空や泣いていた子供に謝ると走り去っていった。

「お兄ちゃんありがとう。これパパが誕生日に買ってくれた宝物だから取られたくなかったの」

 一人残った男の子は大切そうにおもちゃを抱きしめた。

 取られたおもちゃはギターの模型を持った猿のぬいぐるみで、別に可愛くも何ともなかった。そんな物を誕生日にもらって宝物にできる感性が私にはよく分からないけど、そう言い笑う子供を見てこれでよかったんだと思えた。

 いじめっ子達にとっては面白くなかったと思う。私もネットカフェで空に説教された時はムッとした。でも、傷ついた人が助けられる瞬間はやっぱり見ていてホッとするし清々しい。こんな風に思えるのも、空がお母さんの攻撃から私を助けてくれた後だからかもしれない。

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