楽園
夫の秘密
翔琉は毎朝、ジョギングをして午前中にジムに出掛けて帰ってくる。

華も翔琉に誘われたけど運動することは性に合わないと思っている。

「華さん、家にずっといたら運動不足になるよ。」

「うん、そうなんだけど…運動は苦手で…」

「でもちょっとくらい動いた方がいいよ。
今はまだ大丈夫とか思ってるかもしれないけど30過ぎたら身体は変わってくんだから。

一緒にジムに行かない?」

ジムなんて思いも寄らない場所だった。

「友達も出来るし、行動範囲も広がるよ。」

「そうかな。でも主人に相談してからね。」

「そっか…そうだよね。

一度聞いてみたかったんだけど…
華さんのご主人てどんな人?」

華は何となく翔琉に健太郎の話をしたくなかった。

「どんなって…普通かな?」

「休みの日も一緒に出掛けたりしないよね?」

「うん、あの人は日曜は趣味のゴルフに行くから。」

「土曜日は?」

「寝てる。」

「オレだったら華さんと色んな所に行きたいけどな。
華さんみたいな楽しい人と出掛けないなんて勿体ない。」

華はまたその言葉にドキッとさせられる。

翔琉には深い意味のない言葉なんだろうけど
華には甘い言葉に聞こえてしまう。

「とにかくジムのこと考えといて。」

華はその夜健太郎に話した。

「最近肩凝り酷くて運動したいと思ってるんだけど
駅前のジムに通ってもいい?」

健太郎は少しビックリした。

「お前、運動嫌いだろ?急にどうしたんだ?」

「何か年のせいか身体が重くて…」

「まぁ、悪いことじゃないからやってみればいい。
でも長続きしないと思うけどな。」

華は次の日、ジムに入会した。

翔琉も一緒に付いてきて午前中、二人で通った。

「何か気持ちいいね。」

「だろ?だから言ったろ?」

華には少しずつ友達も出来た。

翔琉がいないときはその人たちとジムの帰りに一緒にお茶を飲んだりした。

「華さん、いつも一緒の男の人って恋人?」

「違いますよ!お隣の人です。
何となく仲良くなって。」

「あの人、素敵だよね?恋人にしちゃえば?」

「アタシ、結婚してるんです。」

「そうなの?ご主人はヤキモチ妬かないの?」

「ただのお隣さんですから。」

みんな華と翔琉の仲を疑っていた。

華はそんなことも気付かずに翔琉と接していた。

華の人生には浮気とか不倫とかは無縁の言葉だったから。

もちろん翔琉もそんなつもりで華に近づいたワケではない。

だけどそんなつもりがなくてもいつどうなるか分からないのが男と女だ。

華の人生はある事件で一瞬にして変わってしまった。

その日、華は健太郎のスーツから思わぬ物を見つけた。

それはホテルの領収証だ。

健太郎は外泊などしていないが、
その領収証には確実にホテルの部屋を利用した痕が残されていた。

ルームサービスの食事は二人分だった。

華は夫が自分を抱かない訳を知った。

"明日はジムに行く?"

翔琉からのSNSに華は返事をしなかった。

次の日の朝、翔琉が家に迎えに来た。

「華さん、どうかした?昨日返事がなくて心配になって。
具合でも悪いの?」

華は黙って翔琉に昨日見つけた領収証を見せた。

「これって…?」

「夫のスーツから出てきたの。」

「旦那さん、女が居たの?」

「出張とか外泊とかもしてない。
これって休憩ってヤツだよね?

ってことはそういう目的で入ったって事だよね?」

翔琉は何も答えなかった。

「ジム、行くんだよね?
待って、バッグ持ってくる。」

「華さん、大丈夫?」

「うん、大丈夫。」

でも華は決して大丈夫なんかじゃなかった。

健太郎が自分に興味の無いことを知りながらも
華は健太郎に尽くしてきた。

愛はなくても情はあったはすだ。

恋人みたいじゃなくても家族の絆は出来てたはずだった。

突然華の瞳から涙が溢れてきた。

エレベーターの中で華は座り込んで泣いた。

翔琉はそんな華の肩を抱いて
「今日は家に居よう。」
と部屋に引き替えした。

「華さん、オレの部屋に来る?
それとも一人で居たい?」

華は翔琉の部屋の前に立った。

「家には帰りたくない。」

「うん、入って。」

翔琉が華を部屋に入れて
コーヒーを淹れてくれた。

「どうするつもり?」

翔琉が聞いても華は何も答えなかった。

どうしていいかなんて華にもわからなかったからだ。

「アタシはどうするべきかな?

黙って何も気づかない振りするべきかな?
それとも怒って責めるべき?」

翔琉は言った。

「華さんも恋をすればいい。」

「恋って…誰がアタシなんかと恋をするの?」

翔琉が近づいて華にキスをした。

「オレと…恋しませんか?」
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