クールな御曹司と愛され政略結婚
「灯、あの…」



追いすがろうとした手がシャツに触れる前に、頭をぐいと押さえつけられ、顔が枕に埋まった。



「お前、覚えてろよ、この俺にお預け食らわせたんだからな」

「そんな、つもりじゃ、ないよ」



もがいてなんとか手の下から抜け出せたと思ったら、灯はさっさとドアのほうへ向かってしまう。

落ちていたTシャツを見つけ、頭からかぶってベッドを飛び降りた。



「灯!」



閉まりかけるドアを急いで止めた私を、廊下に出た灯がじろっと見る。



「ちなみに俺はほとんど眠れてない。お前、帰りの運転手やれ」

「えっ、でも私、会社の車で来てるの」

「誰かまだいるだろ、探して預けてこい」

「ええっ…」



つい渋い声を出した私に、灯の忍耐も底をついたようだった。

ぐぐっと私のシャツの襟元をつかんで引き寄せる。

それはすなわち廊下に引っ張り出されたということで、私はオートロックに閉め出されないよう、ドアに手を伸ばして必死に押さえた。

同時にTシャツの裾も、もう伸びてもいいと思いながら全力で下に引っ張る。

ねえこの下、なにも着ていないんだってば。



「文句言える立場か?」

「ごめんなさ」



謝罪は不機嫌なキスによって中断された。

その唇が、眠りに落ちる前の熱をそのまま残したような感触だったので、私はびっくりして目を瞬かせる。

熱い。

荒っぽい口づけは一瞬で終わり、改めて見た灯の顔には、確かに寝不足が表れていた。



「あの…なんで寝なかったの?」

「誰かさんと違って、それなりに緊張も期待もあったんでな。盛り上がってたとこでいきなり梯子外されて、そんな器用に眠れるか。10時にロビーに下りる。車回しとけ」



横柄に言い放って、後ろポケットから出した車のキーを投げつけるように渡してくる。
< 83 / 191 >

この作品をシェア

pagetop