クールな御曹司と愛され政略結婚
広くないベッドの上で、身体を返され背中に吸いつかれた。

姿が見えなくなって、心細さにシーツをつかんだ手に、温かい手が重なってくる。

灯の男らしくて長い指が、きつく絡んで熱を伝える。


私はそれにすごく安心して、灯の重みを感じながら目を閉じた。





──明るい。

覚醒したということは、私は眠っていたんだろう。

糊の効いたシーツが素肌をこする感覚に、自分が全裸なのがわかった。


あれ?

胸元のシーツをかき寄せ、額に手を当てて考える。


…あれ?


ふと背後で、身じろぎする気配がした。

シーツの中が温かいと思ったら、灯がまだいたのだ、と思う間もなく、後ろからがばっと抱きしめられる。



「きゃあ!」

「しっ!」



手で口をふさがれて、こくこくとうなずきながら振り向いた。

おそるおそる、という心持ちで。

案の定、灯は片手で頭を支え、冷たい目でこちらを見ていた。



「途中で眠り込まれたのなんて初めてだ」

「ごめん…」

「それはあれか? 遠回しに俺に修行しろって言ってるのか?」

「そんな…まさか」



めっそうもないです…。

ごめんなさい、ほんと…。


かき寄せたシーツに隠れるように小さくなった。

なにやっているの私、信じられない、寝るとか。


枕元の時計が、チェックアウトまでそう余裕もないことを教えている。

夜のうちに帰ろうと思っていたのに、それすらぶっちぎって眠っていたのだ。


灯が身体を起こした。

床からシャツとジーンズを拾い上げて、順に身に着ける。
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