クールな御曹司と愛され政略結婚
それはすなわち、家族ぐるみのつきあいを離れた場所で、ふたりがこうして話しているのを、初めて目の当たりにするということだ。

一見して気安い関係にあるとわかる、男と女の会話。

間に小さな灰皿を置いて一緒に使う、親しげな空気。

今ここにいるのは、姉の妹でしかない私だ。



「ねえ、唯子の話を聞きたいな」



だしぬけに姉にそう振られ、私ははっとした。

だいぶ氷の溶けたグラスに、焦りをごまかすように口をつける。



「私は変わらないよ、ずっと仕事してた」

「灯の下にいるんだろ?」

「そうだけど、お姉ちゃんこそ、話すことたくさんあるでしょ」

「俺も同感だな。四年も音信不通になっといて。話すなら自分だろ」

「えっ」



灯の言葉に、つい反応してしまった。

私の勢いに、「『えっ』ってなんだ」と灯がきょとんとする。



「灯も連絡とってなかったの?」

「とってるわけないだろ、連絡先もわからなくなってたのに」

「ここへは私が呼び出したんだよ。灯は番号を変えてなかったからね」



姉がテーブルに置いた携帯の画面を、こつこつと爪で叩いた。

私の安堵は、そりゃもう顔に出ていたんだろう、姉は愉快そうに目を見開いて、声を立てて笑った。



「びっくりさせちゃったかな」

「私だって番号、変えてないんだけど」

「だって、唯子はさ」



早々と短くなった煙草を、灰をそぎ落とすみたいに灰皿でこすって消す。

パールピンクの細長い箱から新しい一本を取り出すと、ぱくっと口の端でくわえて、一瞬の動作で火をつけた。



「板挟みになっちゃうだろ」

「どういうこと?」

「私と会ったことを誰にも言わないって約束で、灯はここに来てる」
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