イケメン貴公子のとろけるキス
一万キロ先に向かう恋


コバルトブルーの空にエメラルドグリーンの海。
目にも眩しい白い砂浜。
ため息が出るような写真を眺めてはうっとりとする。

南の島のリゾートを特集した旅行のパンフレットは、たった今、刷り上がったばかりの最新版。
下半期、この秋冬向けの商品だ。
夏本番を迎える八月には、代理店の店頭に並び始める。

日本だけでなく各国に旅行関連事業を展開しているうちの会社『ワールドツアーズ』は、国内では五本の指に入る規模だ。
国内の代理店数は百店を超え、海外拠点は三十箇所余り。
従業員数は本社だけで二千人弱。
代理店や海外も含めると三千人を裕に超える。

このところの円安を受けて、海外旅行部門は前年比を若干割り込んだものの、訪日旅行部門では短期訪問ビザが免除となった東南アジアや東アジアからの客の増加が牽引して、三十パーセントの伸びを見せている。

私、折原(おりはら)ミナは、その本社の企画開発部で主に国内旅行を企画している。
入社六年目の二十七歳。


「その中のお勧めはこれだ」


通りがかりに私に声を掛けたのは、滝本奏(たきもと そう)くんだった。

サラサラで短めの髪は綺麗な栗色。
涼しげな一重瞼が印象的な、知的な顔立ちをしている。
一見クールだが、実はなかなか優しい。

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