臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
問題があったようです。
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臨時秘書になってから二ヶ月が経った。

何となく穏便に時間が過ぎるのは、どうしようもない時以外を除いて、社長が滅多に人前にはでないからかも。

それでも今日は珍しく朝から銀行の人が挨拶回りに来たり、大手の取引先とランチミーティングだったり、思い付いたように参加した会議に……と人前にさらされた社長。

ソファに深く座りながらダレていた。

「絶対、俺に足りないのはコミュニケーション能力だよな」

「……無理なくこなされていたようですけど、違うんですか?」

「これを苦もなく出来るようにならないようにしないとダメだろう」

「大丈夫ですよ。社長の営業スマイルを見破る人はあまりいませんし」

ファイルをしまいながら社長を見ると、疲れたような視線が返ってきた。

「美和。コーヒー」

「……いつも思いますけど、会社で名前呼びはどうなんでしょうか」

「コーヒーだ。小娘」

呼び方変えればいいわけじゃない。

でも、社長が表情を“作る”のが苦手なのは何となくわかる。

たまにニヤリと悪戯思いついたようにして笑ったり、子供っぽく拗ねたように不機嫌になったり、不思議そうにしたり……。

けっこう、そういうのもたまにしかないし、後は……どちらかって言ったら“無”だよね。

何事にも動じなさそうな“無”の表情。

百戦錬磨の営業さん、とまではいかなくても、普通の30代なら、もう少し表情あると思うんだけどな~。
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