夢で会いたい
2 或る男



初めて東京に一人で行った時、「東京駅は親切だなー」と思った。
田舎から出て来る人を想定しているから、あっちにもこっちにも懇切丁寧に案内板が用意してある。

駅自体はもうほとんど一つの町(いや、実際の町村よりも人口は多い)ってくらい広いのに、案内板を頼りに進めばまあなんとか目的地にたどりつける。

そういう観点から見ると、田舎は不親切だ。
「知ってるよね?」とばかりに案内板はひとつもなかったりする。
あとは、中途半端に案内されて途方に暮れる。


というわけで、私は田んぼのあぜ道ですっかり途方に暮れていた。



ハローワークに行こうと思って家を出た。
そんなに難しい道じゃなかったから覚えたつもりになっていた。

けれど実際にその場に行ってみると、どこを曲がったものかわからない。
この道だったか、もう一本先の道だったか、それともすでに通り過ぎたところなのか。

田舎には目印が少ない。
このままではキツネに化かされたように同じところをグルグルするはめになる。


仕方がないのでナビを設定した。
最初からそうすればよかったのだ。
手間を惜しんだ自分を呪う。
急がば回れ。いや、急いでないけど最短距離で。

『案内ヲ 開始シマス』
よろしく頼む!

全面的にナビを信用してフンフンと鼻歌混じりに進む。
ん?こんなところを曲がるの?
それは素人にはわからない道だねー。

クネクネクネクネ曲がっていって、もう引き返せないところまで来て、田んぼのど真ん中ではたと気づいた。
ナビを盲信していたことに。

最短距離を選ぶ余り、一般的ではない田んぼのあぜ道を進んで来てしまった。
方向転換できるようなスペースはなく、おろおろしながらもひたすら前に進む以外道はない(二重の意味で)。
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