【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

<冥王>の謎

 冷気が漂う灰色の空間で大鎌を器用に操る<冥王>の姿がある。
 指先で振り回すとそれは不気味な色合いを放って彼の手元から転がり落ちた。

「…………」

「……なんだ? 珍しく集中力が欠けてるな」

 紅の瞳に黒い短髪の青年が床に横たわった<冥王>の神具を見やる。

「……お前がいるからだろう」

「道化じゃねぇほうのマダラか……」

 ヴァンパイアの王は今日も"比較的仲が良い"マダラの城を訪れていた。
 定位置となっている窓辺へと寄りかかっていた<冥王>と、ソファへ寝そべりながら足を組んでいたティーダ。そのほとんどの時間をヴァンパイアの王が一方的に言葉を発して自分の城へと帰っていくのだが、最近の話と言えば悠久の王が胸に抱くという赤子の話がもっぱらである。

「力でも使ってたのか?」

 かつての<冥王>がどうであったかはわからないが、この<冥王>マダラにはふたつの人格が存在している。
 ひとつは"道化のマダラ"。その名の通り饒舌で奇妙なほどにテンションが高く、気が触れているのかと思うほど奇怪な言葉を発する人格である。
 そしてもうひとつ。今しがたティーダが口にした穏やかなしゃべり口で賢者のような人格の"道化ではない方のマダラ"がいる。話し相手にはもちろんこちらが良いのだが、……これがまた問題である。<冥王>としての力を使うときに現れる人格だからだ。

「……私に聞きたいことがあるんだろう? "なんのために王が存在しているか?"と……」

 転がり落ちた大鎌を拾い上げながらうっとおしげに呟くマダラ。
 そんな彼も見つめながらワインを口にしたティーダは「お前のその力(心眼)も便利だよなー」と羨ましがっている。

「王の力っつったら、悠久の王(キュリオ)の能力はわかるぜ? 俺たち(ヴァンパイア)に喰い物にされたからだろ?」

「わかっているのなら口にするな」

「まぁ聞けよ。……お前の能力は何のためだ?」

「…………」

「人と接するのが面倒くせーってやつが心ん中読んで何になる?」

「……聞きたいのはそこじゃないだろう。心が読める私の前で前置きは不要だ」

「じゃあ何が聞きたいかわかってんだろ? お前の本当の力だよ。<冥王>って言うからには名前に恥じない特別な力が備わってるんだろう?」

「……試してみるか?」

「なにをだよ」

「私の能力をだ。説明するより実践したほうが早い」

 言うが早いが、幻覚のようにユラリと近づいたマダラの動きにティーダの五感が一瞬で危険を察知した。

「……っ!?」

「……て、てめっ……ふざけんな!」
 
 すると次の瞬間、大鎌を振りかざした<冥王>にギョッとしたティーダがソファに手を掛け、ふわりと宙を舞う。

――ザッ!! ドォォオン!!

「マジかよ……」

 真っ二つかと思いきや、木端微塵に砕け散った重厚なソファを目にしたティーダの背を冷や汗が流れる。
 さらにマダラが振り回した大鎌は妙な引力を帯びており、急激に引き寄せられた体は大きくバランスを崩した。

「……チッ!!」

 咄嗟にやむを得ぬと判断したティーダは己の神具をその手に纏う。

――ゴォッ!!

 赤黒い炎の中から出現した爪はギラリと輝いてマダラの大鎌を受け止める。

「どうした? 遠慮はいらないぞ。安心して私の神具に胸を貫かれるがいい」

 ふたつの神具が激突し、激しい火花の向こうでマダラが不敵に笑う。

「……クソがっ!! 納得したと同時に死んじまうだろうがっ!!」

「お前が死んでも誰も困らないだろう」

「……っ!!」

「"図星で言い返せない"か? 哀れだな」

「……こいつに聞いた俺が馬鹿だったぜーーっ!!」

「よく自分が理解できているじゃないか」 
 
「うっせーーーっ!!」

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