【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

世界の理(ことわり)を知る者

「おう、九条。お前ならここに居ると思ったぞ」

「…………」

 前方にはエデンの声が聞こえているにも関わず無反応を貫く黒づくめの男。誰もが思い入れのあるこの長椅子だが、いまは九条の定位置とも言える場所となっており、用事がなければ数日間座り続けているというから驚きだ。

「そう無視するな。残された希望の情報収集にあたってたところなんだ」

 九条の傍らに立ったエデンは風に煽られている己の外套を翻し、近くの柱へと寄りかかりながら静かに男の返事を待った。

「……貴様がなにかできると思わないことだ」

 微動だにせず正面だけを見つめ続ける九条。一国の王に対する敬意のようなものを一度たりとも見せたことがない彼の口調はいつも棘があり、言葉をようやく交わしたとしても<雷帝>の姿を視界に入れることは滅多にない。

「相変わらず手厳しい言い方だな。お前たち以外にも力のあるやつがいる可能性はないのか?」

「そんなこともわからないほどに貴様は衰えたのか?」

 間髪を入れずに鋭い言葉が返ってくるが、冷静なエデンは彼の挑発に乗ることなく話を続ける。

「力を受け継いだ者の存在は?」

「……<雷帝>の名を継ぐ貴様が知らぬふりをするのはよせ。蒼牙に探るよう言われて来たのだろう?」

「わかってるなら話は早い。
どうしてあいつに教えてやらない? かつての王がこの城に置くと決めたんだろう? そういう意味では仙水も大和も蒼牙も同じ立場じゃないのか」

「私と<初代>、そして貴様ら<雷帝>以外にこの世界の理(ことわり)を知る者はいない」

「なぜ黙っている必要がある? 子供だと思っていた蒼牙が疑問を抱くくらいには綻びができてるんだぞ?」

「……なにを話す? 神の審判により間もなく滅びるこの世界の終焉をか?」

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