彼が残してくれた宝物
番外編

「とお…誠さんは…」

「まだ呼び慣れないようだね?
ちょっと徹に焼けるなぁ」と、彼は私の耳元で囁いで、首筋にキスを落とした。

「キャッ!」

体をビクつかせる私を見て、彼は楽しそうに笑ってる。

「そんなに驚く事?」

カウンターの上に置いていた私の手に、彼の大きな掌がかさなり、彼の温もりを感じると同時に、幸せを感じる。

「だって…こんな事されるの久しぶりで…」

「じゃ、ずっと喪に服してたの?」

「勿論よ」

「桜ってそんなにモテなかったんだ?」

それってどういう意味なのかしら?
私だって、それなりに声も掛かるし、デートのお誘いぐらいあったわよ!
でも…
徹…誠…あなたの存在が大き過ぎて…
他の人になんて…
考えられなかった…

考えただけで涙が溢れてくる。

「桜…」

涙を一生懸命堪えながら私は言った。

「モテない訳じゃない。声掛けてくれる男《ひと》もいるし、仕事先に、食事に誘ってくれる歳下の男の子だっているよ?
別に誠じゃなくても…」

言い切る時には、既に涙で顔はぼろぼろになっていた。

子供達の前では、これからは一緒に私を守るって約束迄してたのに…
誠が嫌なら、この先も一緒に歩まなくてもいい。
私には奏輝も律輝もいる。
それにお父さんも、お母さんも私達の側に居てくれる。

「誠の言いたい事…分かった…じゃ、子供達が待ってるから」

“ さようなら ” を言おうとした時、誠は立ち上がり “ 帰ろう ” と、言った。

え?

「急にお邪魔しては、失礼なのは分かってるけど、今すぐ、桜のご両親に今迄の事の説明と謝罪、それから桜との結婚の承諾を貰いに行こう!」

え!?

「誠?」

「桜、明日も仕事なんだろ?」

「え、ええまぁ…」

タクシーを呼んでもらい、慌てる様に誠と一緒に自宅へと帰って来た。




< 82 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop