年下男子とリビドーと
将来の夢

今日も終業を迎え、皆がぞろぞろと帰って行く中、わたしはのろのろとデスクを片付けていた。
正社員登用の話が頭から離れない。

どうしよう……考えながら歩いていると、もう誰も居ないだろうと思っていたロッカーの辺りで、同じく動きの遅い成海くんと出くわした。

「……どうしたの、出遅れてるよ」

顔を合わせてつぶやいた時、『1杯付き合ってくんないかな……』そんな考えが浮かんでしまった。

だけど、ふたりきりで飲みなんて、そんなことをわたしが提案するわけにはいかないだろう……。
迷っていると、成海くんが口を開いた。

「……1杯付き合ってもらえませんか?」

何故同じことを考えているの……驚いて、目を見開いてしまった。
シンクロしたことに、なんだかドキドキしてしまう。

「……そうだね、明日休みだし」
「僕も休みです」

ふたりとも照れたような顔付きになっている気がする。
お互いが休みの前日にふたりきりで飲みなんて、危険な匂いがする……。
そう感じつつも、行きたいと胸を高鳴らせている自分に勝てなかった。


夜の街を歩き店を探していると、成海くんが店の看板を横目で見ながらわたしに提案する。

「ちょっと個室っぽいとこでも良いですか?」

看板には“半個室”の文字。
ますます危険な匂いがする……。
でも、もしかしたら何か理由があるのかもしれないと、心を落ち着けた。

大丈夫。わたしが理性を失いさえしなければ、過ちは起きない……はず。
それに半個室はあくまでも個室ではない、とよくわからない念押しをした。

< 39 / 73 >

この作品をシェア

pagetop