年下男子とリビドーと

だけど、わたしは正社員を目指そうなんて、考えてはいなかった。

派遣社員であることが、居心地が良かったのだ。
そして、派遣社員に誇りだって持っていた。
人の上に立つとか、指導をするなんてことは苦手で、わたしには向いていない。
わたしは裏方で、影でみんなを支えることが喜び。
ずっとそう思って働いて来たのに、何故正社員なんて話が来るんだろう?

ただ、受けなければ雇用形態はパートになる……。
パートだなんて、バイトと同じじゃないか。
この歳でバイトもきつい。

結婚するなら良いのかもしれないけど……。
紘希の顔が頭を過ぎり、瞼を閉じて溜息を吐いた。
結婚はなくなったも同然だと、思い直す。

……わたしは、紘希と別れて成海くんと付き合うつもりなんだろうか。
自分でも、その実感は持てない。

『お前捨てられるぞ』

紘希の台詞が蘇る。
言われた通りかもしれない。
例え付き合ったとして、その可能性は否定出来ない。
一体成海くんに何の覚悟があると?

足取りは重いまま、席へと向かった。

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