さっきから息が苦しい。絶対に帯がキツすぎると思うんだけど。隣に座っている麻子(あさこ)叔母を一瞥する。着付けてくれたのは彼女だ。

 いつも以上に厚く塗られた顔は、不自然なほどに白く、先ほどから落ち着かないからか、隣でソワソワしている。

 私は今、映画の中でしか見たことがないような高級料亭に相応しい上品な訪問着を着て、相手が来るのを待っていた。着物の表地は若草色で見た目も涼しく、全体にあしらわれた花をよく引き立たせている。

 これからどんな料理が運ばれてくるのか、ものすごく楽しみなんだけど、今日は格好もあってそれを堪能する余裕もなさそうだ。グラスは逆さに置かれ、先付けが彩りよく並べられている。

 しかし、お醤油なんかの染みをつけたら洒落にならない。なんたってこれは、おばあちゃんの大切なものなのだから。

 緊張と苦しさもあって大きく息を吐くと、私は部屋の中に視線を泳がせた。

 ここって、もしかして……。

 そのとき、お連れ様がいらっしゃいました、との声が聞こえて先に叔母が反応する。視線を向けると、ゆっくりと開く扉の向こうから現れたのはスーツを着た長身の男性だった。

 俳優さんみたい、そんな第一印象。背が高くて顔立ちも整っている。黒髪はワックスで流れるようにきっちり整えられ、スーツも上等なものだと素人目でも分かった。

 切れ長の瞳は目力が強く、他を圧倒させるものがあった。三十代前半とは聞いているが、やはり立場が上の人間は、それなりの貫禄というかオーラが違う気がする。

「遅れてしまってすみません。宝木直人(たからぎなおと)と申します」

 うん、その見た目を裏切らない、程よく低くて落ち着いた、いい声だ。やや上から目線で、勝手に心の中で納得していると、人のいい笑みを浮かべてこちらに挨拶してくれたので、私も慌てて頭を下げる。