今まで私は直人に結婚する、と言ったことはあっても好きだとは伝えたことがなかった。こんな肝心なことをどうしてしていなかったのか。色々言葉を選んでも、まずは好きだと伝えるのが先決だろう。

「好き……か」

 口にしてそれが音となり、自分の耳に届いて、なんだか堪らなく恥ずかしくなった。そうだ、私は直人のことが好きなのだ。結局これで、もしも結婚するなら、とようやく自分が出した条件が叶うわけだ。

 あれ、でも直人は? 自分の気持ちを伝えることばかりに必死になっていたが、ここで直人の気持ちが今更ながらに気になった。

 条件を叶えて結婚することに異論はないはずだ。それはずっと聞いていた。でも、個人的に直人が私をどう思っているのかは知らない。

 私に好きになってもらいたい、というのはきちんと条件を満たすために言っていた言葉で、直人の気持ちはどうなんだろうか。

 告白しようと浮かれていた気持ちが一気に沈む。告白の答えは分かっている、断わられることなんてない。でも直人の気持ちが、本音はどこにあるんだろうか。それを突き詰めようとすると、じりじりと胸が痛む。

 ぐっと唇を噛みしめたところで、いきなり部屋のチャイムが鳴り、私は口から心臓が飛び出そうになった。こんな時間に誰だろうか。

 直人は鍵を持っているはずだし。恐る恐るインターホンのボタンを押すと、そこには直人と一緒に出張に行っているはずの栗林さんの姿があった。