社長の段取りはあまりにも手際がよく、お見舞いに行った日から、二週間ちょっとで私は引っ越すことになった。

 荷造りしたのはいいが、ダンボールにまとめてみると、生活に必要なものより、趣味のものの方が多くなってしまったことに苦笑する。運ぶのは業者を手配してくれていたので、私は最低限の荷物を持って、タクシーで引越し先に向かうことになった。

 住所を告げて発進するタクシーの後部座席から、どんよりとした空を見上げる。これは、私の心を表しているのか、これからの生活の先行きを案じているのか。

 いや、入梅して雨の日が続いたが、今日はなんとか天気がぐずついているものの、まだ雨は降りそうにない。それは、いいことだ。雨が降っていると色々面倒だった。だから、私はツイている。だからきっと、大丈夫だ。

 心を落ち着かせて、前を向く。しかし、住所は聞いていたものの、肝心の引越し先に行くのは、当たり前ながらはじめてで、どんなところか聞いていなかった。

 そもそも、もしも一緒に住むなら会社へ届け出る住所変更をどうすればいいのか。そこら辺についても「こちらで処理をしておく」と言われたので、任せるしかない。

 乗りかかった船、とはいえ、とんでもない船に乗ってしまったものだ。しかし、そう決めたのは私自身の意思なのだから、あとはどんとかまえるしかない。

 しばらく走ったところで、運転手さんに「ここですよ」と言って降ろされた場所に立ち、私が住むことになったであろう建物をはじめて前にすることになった。それを見上げて目が点になる。

 映画でしか見たことがないようなタワーマンション。私も一応、マンション住まいだったが、そんなものの比ではない。本当にここに、自分が住むのかと信じられなくなってくる。

 こういう高級マンションを舞台にしたアメリカ映画がいくつも浮かんできて、その中でもう一回見たい映画のタイトルを心に留めて、我に返った。