次期社長と甘キュン!?お試し結婚
『晶ちゃん』

「ごめん、今のは忘れて! とにかく彼のことは好きでもないけど、嫌いってわけでもないし。私も彼みたいに、おばあちゃん孝行と思ってるから、朋子は余計な心配しなくていいんだからね。体に気をつけて仕事頑張りなさい」

 なんとか姉らしくまとめて電話を切った。そして自己嫌悪に襲われる。どうして余計なことを言ってしまったのか。あんなことを言えば妹が気にしないわけがない。

 でも、もし相手が妹だったら。社長の息子である宝木直人と三日月今日子の孫であり、うちの会社のイメージキャラクターも務めている女優の三日月朋子なら、彼は変に隠そうとは思わなかったかもしれない。周りの反応だって違っていただろう。

 そこで私は両頬を軽く叩いた。こんなのは私らしくない。妹と比べて、あれこれ考えるのは、もうとっくに卒業したはずだ。そのことで傷ついたり落ち込んでもなにも変わらない、ということもよく知っている。

 そんな私の思考を遮るかのように、玄関の鍵が音を立てたので、思わず肩が震えた。恐らく彼が帰ってきたのだろう。どうしようかと一瞬だけ迷った。

 彼と話さなければならない話題もないし、疲れて帰ってきているのに、私が出て行っても余計に気を遣わせるだけかもしれない。

 でも……忍び足で移動し、なんとなく自室のドアをゆっくりと開けた。ちょうど部屋の前を通り過ぎようとしていた彼が驚いた顔でこちらを見る。スーツを着て、ほのかにお酒の香りがするから飲んできたのだろう。
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