重い体を引きずるようにして帰宅する。解錠音が響き、電気を点けるが、相変わらず今日もマンションに人の気配はない。

 特別に彼となにかやりとりしたわけではないが、一緒に映画を観る、という約束のせいで私は今日一日なんだか落ち着かなかった。

 それにしても、早く帰ってくる、と言っていたが何時くらいだろうか。夕飯はどうするんだろうか。そんな話もしていなかった。

 昨日はとっさのことだったので、彼とは話すことがない、なんて思ってしまったが、よく考えると、そんなことはない。むしろ、話さなければならないことが山ほどあるのに、なかなか踏み出せないでいる。

 「好きになりたい!」と言ったのは自分なのだから、私から行動しなくては。

 携帯を手に持つ。今、自分はきっと怖い顔をしているのだろう。とてもではないが、婚約者にかけるとも思えない表情をしているのに違いない。

 なにをそこまで力を入れているのか。彼の携帯番号は知っているんだから、一言「何時に帰ってくるの? 夕飯はどうする?」と尋ねたらいいだけだ。

 一緒に観る、と約束したのだから、それを聞く権利は私にはあるはずだし。それでも、昨日の彼の部屋を思い出してボタンを押そうとする指が止まる。

 仕事が立て込んでて忙しいのかもしれないのに、こんなことで電話してもいいんだろうか。それが分からない。

 好きではない、と言っていたのに。三島さんに言ったからとはいえ、もしも映画を観るなら、本当にその隣に私は必要なんだろうか。