直人と一緒に暮らしはじめて、気づけば一ヶ月が経過していた。一緒に住んでいるのに、直人が忙しいこともあって、そのうち二人で過ごした時間というのは、ほんの少ししかない。

 それでも、あれからタイミングが合えば、途中からでも直人は一緒に映画を観てくれる。早く帰ってくる、という日があれば、私は彼をおとなしく待ったりする。それこそ犬みたいに。

 犬といえば、この前観た犬と子どもの冒険物語は、相当直人の涙腺を刺激したらしい。『自分も犬を飼っていたから、よく分かる』なんて言ってたけど。

 いつも会社では冷たく硬い雰囲気で、作った表情ばかりを見せているのに。それはそれで直人の魅力だと思うし、実際に女性社員からの人気もすごいけれど、そんな直人が、まさか涙もろくて、映画を観て泣いてしまうような男性(ひと)だと、誰も思わないだろう。

 可愛いな、と思ってしまったことは一度や二度ではないが、それを顔、ましてや口に出すなどはけっしてしたことがない。映画を観て泣いても、泣かなくても、それが素の直人なら十分だ。

 そんな直人に対して、私はというと、いつも自分の趣味ばかりだと申し訳ないから、直人が好きそうな映画を一生懸命選んだりして。

 自分と映画の一対一で完結していた世界が少しずつ揺らいでいく。でも嫌ではない。それは、きっと直人だからだ。 

 もしもこのままの関係なら、結婚生活も悪いものではないかもしれない。彼が望むのなら、結婚してもいいかな、そんな風に思えてきたある日のことだった。

 その日は今月から派遣で入ってきた人たちの歓迎会をしようと、私の部署では飲み会が計画されていた。

 しかし、なんと幹事の予約ミスで日付を間違えていたという、とんでもない事実が直前で発覚したのだ。おかげでまさかの定時上がりとなり、嬉しいような複雑な気持ちだった。