直人にも飲み会で遅くなる、と告げているし、もしかしたら彼も遅いかもしれない。

 改めて連絡することもなく私は帰宅した。それにしても、こんな日に限って土砂降りとはついていない。天気予報はチェックしていたので、傘は持っていたが、それでも多少は濡れてしまう。

 梅雨明けはしたのに、まだ降るのか。それでも、これで少し暑さも和らぐといいのだが。エントランスで雫を払いながら、部屋に向かった。直人は車だから、きっと大丈夫だろうけど。

 不気味な雨音に包まれながら、玄関のドアを開けると、私の目には男物の靴が飛び込んできた。どうやら直人が今日は帰っているらしい。

 少しだけ心が弾んだが、直人のものでもない靴もあるので、もしかしたら、誰か来ているのかもしれない。栗林さんだろうか。

 廊下を上がって進むと、案の定、直人の部屋から話し声が聞こえた。相手はやはり栗林さんのようだ。

 どうしようか、ここは帰ったことを報告して挨拶するべきだろうか。それにお茶でも出したほうが……。

 迷いながら直人の部屋のドアに近づく。ノックしようかと躊躇ったそのときだった。

「結婚できそうですか?」

 その一言に私の息は止まった。栗林さんはドアのところに立っているのか、声がよく聞こえる。外はあんなに雨音が煩かったのに、部屋の中はまるで別世界だ。どこか遠くで雨が降っているような。

 なにより今は私の心臓の音が意識せずとも一番大きく聞こえる。

「なかなか手こずってる」

 ため息混じりに、直人が答えたのが分かった。