別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
理由
少し時間を置いてから、私も会議室を出た。

上着を取りに行き、そのままオフィスを出る。
ドアを開ける前に、チラリとフロアの様子を見ると、部長と何か話をしている奏人が見える。
なんだか機嫌が良さそうだった。


駅に向かい電車に乗る。
奏人のアパートがある駅までは、だいたい十五分くらいで着く。
そこから歩いて十分程でアパートに到着した。


築十年程度の少し壁がくすんだ、どこにでも有りそうな二階建ての木造アパート。
外付けの階段で二階に上がり一番奥が、奏人の部屋だ。

何度も来た部屋だけど、心の有り様が違うからか、今日は凄く緊張していた。

預かっていた鍵を使い中に入る。
狭い玄関に足を踏み入れた瞬間、私は違和感を覚えた。

落ち着かない気持ちのまま、靴を脱ぎ部屋の中に進み周囲を観察する。

この部屋は、玄関を入って直ぐにお風呂とトイレと小さなキッチンがある。

その先の扉を開けると、八畳程の居間兼寝室が有り、壁一面の掃き出し窓の先には小さなベランダがある。


違和感の正体が直ぐに分かった。

電化製品と家具は変わりはないんだけど、この部屋からは生活感が消えていた。

多分、奏人はここで暮らしていないんだと思う。
それなのにどうして引き払っていないのかは分からないけど。

奏人と楽しく過ごした思い出溢れる部屋だったのに、今はとても居心地が悪い。
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