人事部の女神さまの憂いは続く
「あっ、巧!さっきのとこ、右だったっぽい」
「ちょっと、早く言ってくださいよ!てか、無理です。もう、そのマラサダとかいうのあきらめてくださいよ。ホテルの近くにも、きっとありますって」
後部座席から身を乗り出してくる、子どもみたいな大人に文句を言っても
「いや、ダメだって。香織がそこの店のが食べたいって言ってから。買わないわけにはいかないでしょ」
全く悪びれた様子もなく、言い返されてしまう。
はぁ、と大きなため息をついたけど
「悪いな、巧。ちょっと付き合ってやってよ」
無駄に今日もいい男臭を漂わせている崇兄さんに言われたら、嫌とは言えない。
てか、なんで俺が運転させられてるんだよって心の中で愚痴をこぼしながら、慎重に車をUターンさせた。