黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う

ただ、目指して


どれほど翔んだのだろう。

戸惑い混乱したセルティカの王都を、建物から建物へと、ひたすらに逃げる。

でも、どれほど逃げても、私は闇夜を照らす月の光から逃れられない。

月の光を反射して、全身が、きらきらと煌めく。

・・・これでは私の身体が目印そのものではないか。


右耳のあたりに触れる。

あの紫の花は―――いつの間にか、無くなっていた。

仕方ない・・・か。

それから思い出したように肩の辺りをまさぐってみたけれど、いつ落としたのか、ヘリオトロープから貰った白い外套も消え失せていた。

体をもぞもぞとうごめかしているのがわかったのだろう、顔を前に向けずっと無言を貫いて飛翔していたヘリオトロープが私の顔を見た。

「どうかしたか」

「・・・外套が、無い」

「今更か、随分前から無かったような気がするが」

「・・・そうだっけ」

はは、と笑おうとしたけれど、口から漏れたのは微かな吐息だけだった。

ああ、何も、考えられない。

頭が、ぼんやりして・・・

「寝ろ。今は・・・何も考えるな」

ヘリオトロープがそう呟いた声に、素直に目を閉じた。

そうか、私は、考えられないんじゃなくて、考えたくないのだ。


まぶた越しにも感じる異常に眩しい月明かりが意識の向こうに遠ざかっていく。

私はヘリオトロープの腕の温もりと、彼が裂いて進んでいく風の音だけを感じていた。



「ん・・・」

深い深いぼんやりとした場所から意識が引き戻されてしまったから、まぶたを持ち上げる。

私の意思を拒否するようにゆっくりとしか開いていかない瞳は、視界一面に茶色い木目を映した。


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