【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

<雷帝>エデン 後悔の念 ※

 ――白銀の鎧を身に纏った大柄な男が巨大な水晶で創られた門の前に立つとそれはゆっくり開かれ、彼は実に数年ぶりとなる悠久の地に足を踏み入れた。
門をくぐってやってきた男の姿を確認した悠久の家臣は、ただならぬ気配に背筋を伸ばすと毅然とした態度で深く一礼する。

「エデン王! ようこそおいで下さいました!!」

「あぁ、勤めご苦労。キュリオ殿は城におられるか?」

彼は男らしい低い声と力強い眼差しに誰もが憧れる彫刻のような美貌を持つ王だ。そして<雷帝>としてその名に恥じることなく並みならぬ風格とオーラを兼ね備え、他の上位王にも引けをとらぬ強大な力を誇っている。

「はっ! 有難きお言葉っ! 早朝に戻られたキュリオ様は現在悠久の城にいらっしゃいます!」

「……早朝に戻った? 忙しいのか?」

「詳しくは申し上げられませんが、おそらくもう落ち着かれた頃かと……」

「…………」

(何かあったか……)

「わかった。ならば伺わせてもらうとしよう」

彼は背に出現させた堂々たる翼を広げて地を蹴ると、重力を無視したように力強く飛び立つ。いつみても神々しい王たちの翼。王が持つのは強大な力や神具、長い時間だけではない。その翼を持つ者こそが王である証なのだ。

 猛々しい稲妻を思わせる橙の髪と金の瞳。彼の神具は神槍で、五大国・第四位の王だ。そして<革命の王>、<雷帝>と言われる由縁は彼ら"雷の国の王"の歴史と深く結びついていた。

エデンは<雷帝>と呼ばれるたび、いつもたった一人の少女を思い出す――
誰よりも可憐で、誰よりも他人が傷つくことを良しとしない心優しき少女。彼女の眼差しは日の光よりもあたたかく、愛に満ちあふれたものだった。


”……エデン様”


記憶に新しいのは少女の不安そうな表情と声。
そして冷たくなっていく彼女の体。

何が最善の方法だったか……今もわからない。


”すまない……すべてが手に負えなくなる前に俺に出来たことがあったはずだ……”


そう後悔を滲ませるエデンの前で漆黒の衣を身に纏った長身の男が逆上したように声をあげた。


”いまさら何をっ……! 彼女を見捨てた貴様が言えたことかっっ!!”


エデンに掴みかかる男の手は怒りと絶望に震え、その瞳には深い悲しみと積年の恨みが入り混じっている。
 少女が笑っていた頃にもこの男とは小さないざこざがよくあった。そんな二人の様子を彼女以外の周りの者は笑って見ていたが、彼が心の底から自分を嫌っていたことは明らかな事実だ。

なぜならば、エデンはその男たちから彼女を奪った憎き男だからだ。

――やがて後悔の念はいつまでもエデンの心に深く影を落とす。
そして、悠久に咲く……とある花を見て、彼はさらに悲恋の物語と向き合うことになるのだった――。

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