【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

精霊王の謎

キュリオとアオイがふたりきりの楽しいひと時を過ごしている頃、別室ではガーラントを含むアレスとカイの三人はさらに深い話へと足を踏み入れていた。

「先生は精霊王について何かご存じですか?」

「儂も詳しくはわからん。まぁ、答えられることもあるかもしれん」

遠くに見えたはずの精霊の国の門が気づけば目の前に迫っていたこと、そしてキュリオの上を行くという千年王の精霊王の話など聞きたいことは山のようにある。

「私たちが悠久をでてすぐに向かったのが精霊の国でした。最初は遥か遠くに見えたと思っていたのですが、次の瞬間にはもう目の前に……」

アレスの話を聞きながら隣のカイはそのときのことを思い出すように頷いている。そしてその顔が緊張したように強張っているのは、直面した際、かなりの衝撃を受けたであろうことは予想がついた。

「……そうじゃな……」

ゆっくり口を開いたガーラントは、あのときのブラストのように恐れ多いことを口にするのをためらうような様子を見せた。

「お前たち、精霊王の御姿までは見てはおるまいな?」

「はい。門の番をしていたのは風の精霊で、それから光の精霊が出て参りました。精霊王の御姿は残念ながら……」

「精霊はたまに悠久の森や川の傍でも見かけるでな、まぁ珍しいといえばそうなるかもしれんが……精霊王は別格じゃよ。十数年前、キュリオ様と城の中庭で言葉を交わされている御姿を遠目で見たのが儂は最初で最後じゃな……」

それを聞いたカイは勢いよく身を乗り出すと興奮気味にガーラントへ顔を近づける。

「か、風の精霊なんか小さい旋風(つむじかぜ)みたいなやつでさっ! 光の精霊なんてただの光の塊に見えたぜ!? 精霊王はどう見えるんだっ!?」

滅多に見ることができないという精霊王の姿。もしかしたらカイもアレスも一生見ることは叶わないかもしれない。そう思うと、実際目にした者の話が聞けるというのは彼らにとってとても貴重なことなのだ。

「ほぉっほぉっ! カイ、お前さんなかなか鋭いな! 何も知らぬ者は大抵、精霊王と精霊は同じような姿をしていると思い込むものなんじゃよ!」

嬉しそうに笑うガーラントは目の前の小さな剣士と魔導師にゆっくり語りかける。

「自然体の精霊王は人のかたちをしておる。遠目でわかるくらい麗しいお方じゃよ。しかし……」

そこまでいうとガーラントはわずかに表情を曇らせた。

「しかし……?」

カイとアレスは大魔導師の言葉に思わず息を飲む。

「王同士ならば可能らしいがの、普通の人間では触れることさえできぬ。そして彼もまた触れることができないんじゃよ」

キュリオが精霊の国とヴァンパイアの国からの返答はわかりきっていたとしていたのもここにある。ヴァンパイアではないことはキュリオが実証済みだが、精霊は実体を持たないため人に触れることが不可能なのだ。

「なるほど……、人のかたちをしている精霊王でも根本的に私たちとは違う体なのですね……」

「そうだな、難しい体なんだな」

ふたりは知らないことが多い。そして知らぬがゆえに踏み込んだ質問がなかなか思いつかず、ただガーラントの話を頼りに知識を増やしていくしかないのだ。

「左様。あとわかっていることと言えば……神具は弓矢、それと極度の人見知りってことくらいかのぉ。千年王の彼は人を見る目も肥えておられる。<心眼の王>と呼ばれる冥王は心を読むが、精霊王は一目で相手がどんな人物か手に取るようにわかってしまうらしいのじゃ」
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