極上な彼の一途な独占欲
08. 過去が追ってくる
結城一博(ゆうきかずひろ)とは、前の会社の仕事関係の飲み会で出会った。

合コンと言うほど目的のはっきりした会でもなく、仕事繋がりと言える範囲で知り合いを呼び合って、20人くらいで集まろうよ、という20代前半特有の、人脈構築への妙な熱意によって実現した会だった。

当時から彼はなにを生業にしているのか掴みにくい男で、仕事はなにと聞いても曖昧にごまかして教えてくれなかった。

週刊誌から企画制作の委託を請け負っている会社のライターだと知ったのは、後になってから。『週刊誌の関係者って知ると、みんな警戒するし』とは本人の言だ。


『そういうもの?』

『うん。こっちもあんまり知られたくない。動きづらくなるから』


要するに、いつ誰が取材対象になるかわからないから、身分を晒さずに近づけたほうがのちのち有利ということだ。

そんなやくざな身の上のわりに本人はいつだって気楽そうに笑っていて、仕事柄なのか話題も豊富で、けれどそれをひけらかすこともなく、人をくつろがせるのがうまい男だった。

未熟だった私の目には、そんな彼が醸し出すどこかアウトローな香りが、この上なく魅力的に、ちょっと危険に映り、誘われるままに会って、喜んでもらえるならと身体を差し出して、二年ほどした頃、彼の『もういいや』の一言で終わった。


「美鈴、ここ泊まってるの?」


立ち尽くす私に、ヒロが悪びれずに訪ねてきた。

彼の後ろでエレベーターの扉が閉まり、階数表示のランプが、ゆっくりと上の階へ移っていく。

私の返事を待たずに、ヒロは「そっか、オートショーとか関係あるもんな」とひとりで納得し、視線をざっと私に走らせて「元気そうだね」と笑った。


「…そっちこそ、なんでここに」

「俺、今車雑誌のライターやってるんだ。ショーの会期中は毎日どこかしらのブース見て記事書いてる。そうすると自然と、コンパニオンの子たちとも顔見知りになっちゃうんだよね」

「うちの子の部屋に来てたのね?」

「お前が関係してるなんて知らなかったんだから、仕方ないだろ」

「知ってても気にしなかったくせに」


にらみつける私に言い訳もせず、どう読み取ればいいのかわからない微笑を浮かべて、肩をすくめる。

どうしてこの場面で、そんな余裕を見せていられるの。やっぱり私との別れなんて、ヒロにとっては大した出来事じゃなかったんだね。
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