甘い媚薬はPoison
5、一番欲しいものと一番大事なもの ー 蓮side
今でもはっきり覚えている。
『蓮くんと歩くんは私がもらう!』
両親の通夜の夜、愛梨は俺達の存在を疎ましく思っているうちの親戚連中に向かって怒りに満ちた目でそう言い放った。
烈火の如く怒りをたぎらせるその姿は、まるで阿修羅のよう。
妹のように思っていた自分よりも四つ下の彼女に圧倒された。
『こいつ……凄い』
知らず感嘆の声が漏れて、羨望の眼差しで愛梨を見つめた。
何故なら俺は冷めた目で親族を見ることしかしなかったから。
彼女のその言葉で俺達兄弟がどんなに救われただろう。
俺は当時高校三年で、弟は中一。
弟だけなら引き取るという家もあったが、兄弟別れ別れになるなら、受かった大学を蹴って就職してでも自分が弟の歩を育てるつもりでいた。
だが、愛梨が彼女の父親を説得し、幸いなことに俺と歩は彼女の家に同居することに……。
愛梨の両親は実の娘と変わらぬ愛情を俺と歩に注いでくれた。
俺達兄弟はその恩を一生忘れないだろう。
そして、愛梨も不幸のどん底に落とされた俺達をいつもそのひまわりのような明るさで勇気づけてくれた。
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