愛しの残念眼鏡王子
最初は戸惑ったけど、気に掛けてもらえるのが嬉しくて。でもなかなか素直になれなくて……。


優しくしてもらっているのに、飲み会と聞くとあの日の記憶がフラッシュバックしてしまい、誘われても断ってしまっている。


ユウがいれば、私は幸せだった。

一緒に暮らしていけるだけの稼ぎがあれば、他にはなにもいらないと。

けれどあの職場にいると、欲張りになっていく。

みんなと仲良くなりたいって。


仲良くなりたいのに、誘われる飲み会には参加できない。

矛盾する自分の気持ち。


そして――。

もう二度と、恋なんてしないと思っていたのにな。


先ほどの専務の笑顔が頭から離れてくれない。

思い出すだけで、胸がトクンと鳴ってしまう。


どうして人は、ひとりで生きていけないんだろう。

悲しい思いも辛い思いもしたくないから、ここまで来たのに。

もう誰も好きになりたくないって思っていたのに。

優しくされると、どうしても甘えたくなる。


ただ人恋しいだけなのかもしれない。――けれど、私の心で専務の存在は大きくなるばかりだった。
< 36 / 111 >

この作品をシェア

pagetop