祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

垣間見た素顔に

 シュライヒ家を後にしようとすると、高い位置にあった太陽は、すでに山あいに姿を隠していた。城までの距離を考えると、遅くなるのは明白だ。

 そんな折、ブルーノが明るく自宅での宿泊を提案してきたので、一行はヴェステン方伯の屋敷で一晩過ごすことに決めた。

 やはり方伯ともなると屋敷の大きさが違う。ブルーノの父親は西隣国との協定の見直しに赴いているため不在だったが、突然の来訪なのだからしょうがない。

 むしろヴィルヘルムにとっては、そちらの方が有難かった。幸い、仕える者も客室も十分にある。

「しかしまぁ、あれで解決って言えんのか? 奥方になんて説明するんだか」

 杯に入っている酒を呷り、ブルーノは心配そうに漏らした。

「できることはやった。あとは我々の手出しすることじゃない」

「冷たい奴ー」

 きっぱりと答えるヴィルヘルムにブルーノは大袈裟にリアクションをとってみせた。夕食をとるために集まった食堂では、あまり喋る客人たちではないので、ブルーノの独壇場となり、今回の件についての感想を延々と述べ始める。

 その間、話を真面目に聞いている者はほとんどおらず、唯一、途中までは相槌を打っていたリラも、塩漬けされた魚のソテーが運ばれると、そちらにすっかり意識を持っていかれた。

 あの瓶詰されている小魚の目を思い出しドキドキしたが、口にすると動物の肉とはまったく違う味と食感に魅了された。

「今日はゆっくり休んでいってくれ」

 食事もすみ、ひとしきり喋り続けたブルーノのその一言でようやく解散することになった。思えば全員が疲れている。
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