祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

薔薇園での出会い

 生い茂った緑葉の合間に顔を覗かせる大輪の薔薇たち。春の陽気が降り注ぐ中、種類も色も様々で甘い香りを漂わせている。さらにその向こうには雲ひとつない青空が広がっていた。

 いくら城が大きくてこの庭が広くても、この空には敵わない。自分はこうして、永遠にここに捕われたままなのだと思うと、美しい薔薇のアーチも今の自分にとってはその鋭い棘のおかげで触れることもできない檻のようなものだ。

 フェリックスはゆっくりと上半身を起こし、ため息をつく。直につけていた背中が多少湿り気を帯びて痛むが、そんなことはいちいち気にしていられない。

 ここは、唯一気楽にひとりで過ごせる秘密の場所なのだから。第一王子として生まれた自分に心休まるときなど微塵もない。

 父親であるヨハネス王は、間違いなく歴史に名を残すと言われているほど、政治手腕は見事なものだった。緊迫していた近隣諸国との関係に兵をあげ、こちらに優位な条約を結び、領土の拡大に成功。絶対的な王政を確立させた。

 もちろん四方に存在する方伯の力も大きい。元々は王家の血筋を辿る者たちとも言われているが、その真偽は定かではない。

 そんな王が、ここ最近床に臥せているというのだから、臣下も民も気が気ではなかった。そして、自然とフェリックスにかかってくる重圧も半端なものではなくなってくる。

 唯一の救いは四つ年下の異母弟である第二王子が、優秀だということだ。母親同士はどちらが後継者となるかと火花を散らし、王となるべく心得をそれぞれの息子に言い聞かせてきたが、フェリックスはそんなものとっくに放棄している。
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